自由な競馬
寄り道先は、霊山寺だ。
霊山寺という名前だけではぴんと来ない人がいるかもしれないが、四国八十八カ所の第一番札所となるお寺である。
霊山寺の最寄り駅は、高徳線の板東駅。
高松方面から来ると、鳴門線への分岐駅となる池谷駅のひとつ手前だ。
さすがに本格的なお遍路さんと旅打ちを同時に行う人はいないだろうが、旅打ち人も第一番札所くらいは訪れておいていいだろう。
おみくじもあるので、運試しをしてみるのもいい。
それでは、鳴門競艇場そのものの紹介に入ろう。
鳴門競艇場の開設は昭和二十八年。
最初の開催は四月二十四日から二十八日にかけて行われ、二万人近い入場者を集めた。
記録を見ると、昭和三十年には、「7月3 1日 鳴門市、競走会、徳島新聞共催でC級ランナーバウト六隻が大鳴門海峡の縦断実験を実施、引潮どきであったが関係者一同の努力が実り成功」。
さらに昭和三十一年には、「7月22日 丸亀~鳴門間長距離モーターボートレースを挙行、大西覚選手外六名無事故で帰鳴」といった記述がある。
単なるギャンブルにとどまらず、さらなるアイデンティティの獲得を意識していた時代性が感じられる。
以来半世紀以上にわたってファンを楽しませてきた鳴門競艇場だが、他場にない特徴を挙げるとしたらまずは景観と水面、二つめにはこの本で 「昭和」と表現しているところの古びた雰囲気だろう。
渦潮の地として知られる鳴門だが、さすがに競艇場は渦潮が発生するような海面に存在しているわけではない。
そんな水面では競走が成立しない。
鳴門競艇場が設置されているのは、小鳴門海峡と呼ばれる小海峡の南岸である。
この小鳴門海峡は大毛島という島と四国本土との間を流れる小さな海峡だ。
ただ、そんな水面でも、淡水にはない特徴はある。
『競艇ファン手帳』 (日本レジャーチャンネル) によると、「海水で軟らかい水質だが、海峡のため潮の流れが速く、潮の干満がレースに影響する」とのこと。
また、夏と冬では風向きが逆になりやすく、冬場はイン有利、夏場はアウト有利になりやすいそうだ。
一方景観はというと、スタンド上部でなく水面に近いところに立った場合へ フェンスの向こうに隠れて海峡そのものは見えにくい。
一方で、-マーク側にかかっている小鳴門橋と、その先にある大毛島の山はけっこうな存在感で視界に入ってくる。
結果として、海峡の競艇場にいるにもかかわらず山の里にいるような不思議な気分になるのが鳴門競艇場である。
施設はというと、これは一言で言って、古い。
昭和ノスタルジーを求めている人にとって鳴門競艇、 マークの攻防は言うことなしだろう。
本稿の参考資料としている『競艇沿革史』 (全国モーターボート競走施行者協議会) は昭和四十五年の発行で、そこに「現在の競艇場(つまりは昭和四十五年当時)」として載っているスタンドはいまのものとは違うように見えるのだが、ひょっとすると構造物自体は同じで、水面側をガラス張りにするなど小改修を施しただけかもしれない。
スタンド内に入ると、「昭和、ときどき平成」という印象。
入ってすぐのスペースなどはきれいにリフォームされており、グッズショップなどいまの時代に即したサービスもある。
ただ、場内を歩いてみると、それ以上のパワーで「昭和」が目に飛び込んでくる。
例えば、昭和四十年代風の子ども遊具場スペース。
遊具やイラストのタッチがいちいち昭和風であり、さらにそこで一人だけぽつんとおやじが予想にふけっていたりして、「公営競技経営の観点からはどうかと思うが、哀愁マニアとしてはたまらん」といった空間が演出されている。
あるいは、筆者の記憶が確かならば特観席(注目)にあるコーヒーの売店。
と看板に大書されている。
正確には「コーヒーの店」という看板の下に「コーヒーの店」という看板が出ていて二段構えになっているのだが、筆者が平成十八年十二月に見た際には、とどめに「ホットコーヒ \300」という手書きの貼り紙がなされていたので、全体としては「コーヒー」優勢と言えよう。
コーヒーから音引きを取って「コーヒー」、逆にコーラに音引きをつけて「コーラ」と泰記するのは昭和の娯楽施設として王道である。
ということで、このお店についてはそっと見守っていく方針でいきたい。
なんだかこうして書くと鳴門競艇場をバカにしているように思われそうだが、私が昭和看板の上下で矛盾が一一昭和と言うのは公営競技全盛期の雰囲気や、旅打ち人に落ち着きをもたらす風情を含んでのことなので、御理解いただきたい。
最後に、鳴門は食べ物の点でなかなかいい、ということも書き添えておこう。
鳴門で一食がつり、というと、マーク側の食堂街。
メニューに際立った特徴があるというわけではないが、食堂街自体がいい味を出している。
単品系では、スタンド内の売店における天変羅類の充実が素晴らしい。
そもそも単品系のメニュー自体が減っている時代だけに、選ぶ楽しみのあるお店というのはありがたいものである。
胸焼け覚悟であれこれと頼んでみたいところだ。
地元らしい名物、ということでは 「情報協会売店」 で売られている「鯛ちくわ」を挙げておきたい。
「実演販売」と看板を出しており、その場で焼いたものを出してくれる。
旅打ちの記念に、ぜひ押さえたい。
観光地系の代表選手として帯広と鳴門を挙げたが、そのほかにも「観光+公営競技」という組み合わせはいろいろと考えられる。
ここでは他の地域について、思いつくままに挙げていこう。
本書では公営競技の代表選手である中央競馬についてほとんど触れていないような気がするが、全国に一〇ヵ所ある中央競馬から選ぶならば、やはり函館競馬場がよいだろう。
スタンドの大規模な改修のため平成二十一年は開催を休んだ函館だが、平成二十二年にはぐっと近代的なスタンドにかわってお冒見えする予定である。
今回の改装は「リゾート地の開放感あふれる競馬場」「人と馬との距離が近い競馬場」をテーマにしているそうで、前者は旅打ちの理念ともよりマッチする。
函館競馬場はJRAで唯一「海が見える競馬場」として知られており、おそらく改装後も上層階からのビューは確保されるはずだ。
函館は霧が出ることも多いがたいていのうちは午前中だけなので、晴れさえすれば海は見えるはず。
さらに快晴ならば下北半島まで見渡せることがあり、そんな日にあたればラッキーである。
またスタンドから見て右手には函館山、その手前には函館競輪場も見える。
ちなみにその函館競輪場は、ナイター競輪発祥の地である。
かつては日曜に開催が組まれることもあり競馬-競輪というはしごも可能だったが、最近はまず見ない。
仮に月曜に競輪があったとしてもナイターなので、帰りが火曜になってしまうのが難である。
さて、函館競馬といえば欠かせないのが温泉と海の幸だ。
温泉は、競馬場前からそのまま路面電車でアクセスできる湯の川温泉がある。
最近はビジネス客を見込んで一人用パックを設定している温泉ホテルもあり、そういうところならば一人旅でも温泉を満喫できる。
グループでの旅行なら、部屋付きの露天風呂を備えた宿を奮発してもいいだろう。
函館の食べ物といえば、やはり海産物。
市内の有名寿司店では調教師や馬主など競馬関係者に遭遇することもあり、日曜の夜あたりだと騎手との遭遇もありうる。
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